2022/01/23

私家版 天体写真の撮影機材と撮影 (2021年度版)

MAK127とAZ-GTi を手に入れて一年半。木星を手始めに眼視よりは撮影重視で楽しんできました。MAK127 と AZ-GTi は値段も手頃で初心者にはありがたい組み合わせです。Twitter をみていると、より高解像度な惑星を撮影するために MAK127 より大口径に移行していったり、より安定した導入や長時間露光などを求めて AZ-GTi の経緯台またはおまけの赤道儀モードからちゃんとした赤道儀を導入されていく方がちらほらと。

まだしばらくこの組み合わせでやっていこうと思います。

AZ-GTi の赤道儀化とかまだやってみたいことはある。

撮影機材

望遠鏡

  • Skywatcher MAK127 (有効径: 127mm, 焦点距離: 1500mm)
  • Vixen Icarus-6M (有効径: 60mm, 焦点距離: 910mm)
MAK127 はマクストフカセグレンというタイプの望遠鏡。安い割にはよく見えると定評です。月、惑星向き。買った当初は月、惑星と言われてもピンときませんでしたが、倍率的に星雲、星団ははみ出ちゃうので厳しいです。また F値が暗い (1500/127=約F12)ので撮影にもあまり向かないと言われます。でもそれなりに楽しめます。撮影対象は月、惑星(木星、土星、火星、金星)とオリオン大星雲(M42)ならギリ。シュミットカセグレン系は筒内気流により像が安定しなくなるという欠点があるので観測開始よりしばらく前の時間に出しておいてというのは基本のようですが、鏡筒に災害用の保温アルミシートを巻き始めました。効果の程はいかほどに?

Icarus-6M は本当に古い安物。小学生の頃に買ってもらってほぼほぼ寝ていたものを、最近アメリカンサイズの接眼レンズなどが使えるように改造。また AZ-GTi に搭載できるように、アリガタプレートを装着。撮影対象は月。オリオン大星雲もいけそうな気がするけど暗い(910/60=約F15)ことと、変に色がついているっぽいので難しいかなと。その代わり月は案外解像してくれるので、一枚物の撮影用として D750 と組み合わせて使うことが多いです。


架台

  • Skywatcher AZ-GTi (赤道儀未対応)
だけです。現状使えるのは。カメラだけの場合、カメラ用三脚を使うこともあります。月とか彗星や流星の撮影で。AZ-GTi に赤道儀対応のファームを入れると赤道儀としても使えるのですが、MAK127 が赤道儀対応ファームを入れると、経緯台時にファインダーがとてもみづらい位置になるので、躊躇しています。星を導入するのにファインダー必須ですから。あと赤道儀化にはファームの入れ替えだけでなく、斜めにするための台座、バランスウェイト、極軸望遠鏡など追加で必要になるものがあるのと、うちのベランダって北極星方向は開けてるけど、北極星が肉眼で見えない日も多々あるんですよね、というところも躊躇するところ。

カメラ

  • Nikon D750 (Size: 6016 x 4016, Pitch: 5.97um x 5.97um)
  • ZWO ASI462MC (Size: 1936 x 1096, Pitch: 2.9um x 2.9um)
一昨年はよくわからないものには投資したくなかったので、とにかく D750 でがんばりました。フルサイズのデジイチなのですが、フルサイズは画素が大きいので集光率がよい反面、同じものを撮影すると、対象に対するピクセル数が荒くなります。どっちがいいんだろ?なので APS-C を撮影に使っている方も多いようです。その点天体撮影に特化した CMOS カメラ、ASI462MC は画素ピッチが D750 の半分程度なので、惑星をより高解像度に撮影することが可能です。画素が小さい分のノイズはスタックすればさっ引くことができるので多分いいんですね。ただセンサーのサイズそのものがフルサイズよりは小さいので撮影範囲が小さいです。月の拡大には使えますが、星雲系には全然使えないです。D750 の動画撮影機能はどうしても圧縮されたフォーマットしかないので、あんまり嬉しくないというのもありました。また SharpCap からコントロールできない(できなくはないようですが僕はできていない)のも使いにくい点です。ASI462MC は生データが得られるので天体撮影には間違いなく有利です。



バローレンズ・レデューサー

  • SVBONY x2
  • SVBONY x3
  • SVBONY x0.5
一昨年天体写真を撮り始めた頃は、接眼レンズを挟んで D750 を MAK127 に接続していましたが、最近はなにも間に挟まない直焦です。バローレンズはお試しで x2 買ったのにはじまり、もっと拡大したくて x3 (望遠鏡の口径次第であまり拡大しても意味ない)を追加で。ASI462MC に付けて使っています。またMAK127 でも広範囲を撮ってみたくて x0.5 のレデューサーも買ってみましたが、レデューサーは周囲が歪むのでイマイチかな。。

レンズ

  • Nikon AF-S NIKKOR 28-300mm f/3.5-5.6G ED VR 
D750 のレンズ他多数。24mm, 35mm, 50mm, 12-24mm(DX) など持ってますが、上記を主に使ってます。あまり天体写真に良いレンズとは思いませんがこれしか焦点距離長いの無いので。


その他アイテム

  • ZWO ADC 1.25''
大気分散の影響を避けるためのプリズムが入ってます。主に惑星の撮影に使います。AZ-GTi だと調整中に望遠鏡が揺れるのでとても調整しづらいです。

撮影

AZ-GTi は月を撮影するときは全く制御しなかったりします。スチルでも動画でも。セットするの面倒なので。それ以外の時はちゃんとアライメントとって自動追尾させます。しかし暴れることしばし。。

撮影に使うソフトは ASI462MC は SharpCap、D750 は digCamControl を使用しています。APT (Astro Photography Tool)も入手したけど使いこなせておらず。APT は D750 もコントロールできていいんですけどね。D750 でスチル一枚を撮るだけの時と、動画を撮る時(今はやらない)のときはソフト使いません。ブレないようにレリーズは使います。

  • D750 + NIKKOR 28-300mm (スチル一枚撮り)
  • D750 + Icarus-6M (スチル一枚撮り)
  • D750 + MAK127 (スチル一枚撮り、動画)
  • ASI462MC + MAK127 + 直焦, x2, x3 バローレンズ (動画)
色々な撮り方しています。スチル一枚撮りではシャッタースピードもだいぶ速いので、三脚だったり、AZ-GTi に載せても電源いれてなかったりします。動画も30秒ぐらいならありかと。ASI462MC を使った場合はだいぶ拡大になるので自動追尾させながら撮影し、部分、もしくは全体モザイク合成をします。




惑星(木星、土星、火星、金星)

  • ASI462MC + MAK127 + x3 バローレンズ + ADC (動画)
この組み合わせしかありません。D750 では倍率を上げるため、接眼レンズと組み合わせて動画を撮っていましたが、ASI462MC の方が遥かに良いので D750 では撮影しなくなりました。



星雲星団系

  • D750 + NIKKOR 28-300mm (スチル一枚撮りを複数)
  • D750 + MAK127 (スチル一枚撮りを複数)
MAK127 に D750 直焦はちょっと倍率高いので対象が絞られます。M42 ではみ出る。また一枚どりでもこちらは数秒を数百枚レベルなので、AZ-GTi で自動追尾させます。経緯台モードなので像が回転してしまうのが難点ですが、DeepSkyStacker がそんな画像でもスタックしてくれるので真ん中は使えます。お試しで少ない枚数を撮って重ねるだけなら普通の三脚で固定もありかなと思います。 


こうしてみると、とりあえず星雲星団系撮るレンズが無い。。28-300mm は周囲歪むんですよ。星が点にならずに放射状になる。多分レンズのせいです。普段使いでは便利なんですが。




私家版 天体写真の処理 (2021年度版)


一昨年から始めた天体写真の 2021年度に主にやっていた方法まとめ。一昨年は本当に手探りでした。そもそも都心の家から出ずに撮った画像からどんなものが出てくるのか皆目わからなかったので、ステライメージのような商用ソフトに手を出す前に、フリーのツールでできる範囲でということを主眼に置いてます。もちろん他にもいい方法やツールはあるとは思いますので、良い方法見つけたら試していきたいと思います。また本当は Mac で全部やりたいんですが、現状 Bootcamp の Windows で完結してます。M1 Mac も欲しいけど悩ましい。。

月、惑星の処理

基本的には動画をスタックして、ウェーブレットで強調処理をかけています。ただし月に関してスチルで一枚撮りの場合は、ウェーブレットで強調処理かけておしまいにする場合もあります。楽ちんなので。その場合強調処理をしたいとき、フォトショ系ツールで強調するよりパリッと仕上げやすい気がします。その後フォトショ系のツールで色味などを整えています(面倒なので iPhone だったりする。でも優秀)。元画像は RAW だったり、動画の方も非圧縮とかとにかく高画質なものの方がいいです。あと飽和すると画素データが消失するので、ちょっと暗めに撮っておくといい感じかと思います。


スチルの処理

ウェーブレット変換の機能のみを Registax6 で行ってるだけです。スチルを一旦 TIFF フォーマットに変換して、それに対して Registax6 に読み込ませます。だいたいレイヤー2,3あたりのスライダーと Sharpen, Denoise あたりをいじってます。Registax6 の出力フォーマットは 16bit の PNG にしてます。他のフォーマットも出せますが、TIFF はでかく、JPEG は非可逆の圧縮がかかるので、とりあえず PNG にしてます。
月を撮るときは ISO感度は低めでシャッター速度もかなり速くできます。

動画の処理

惑星(金星、火星、木星、土星など)の処理と月で使うツールは同じです。Autostakkert! でスタック処理をして、TIFF を出力、Registax6 でウェーブレット変換での強調処理をおこないます。スタック処理しただけではモヤっとした感じでもウェーブレットで強調処理をすると詳細が浮かび上がってきます。Autostakkert! の受け付ける動画フォーマットは制限があるので、対応しない MOV などは PIPP などのツールでフォーマットの変換をする必要があります。SER などの劣化しないフォーマットを選びます。また PIPP は自動追尾していてもしていなくても対象が画面上フラフラしている(風だったり振動だったり追尾エラーだったり)のをセンタリングして切り出す機能や、画質の悪いフレームを削除する機能があるので併用したりします。Autostakkert! にもセンタリングする機能はあるのですが、PIPP でセンタリングした方が良い場合があります。月の拡大撮影の場合は PIPP よりも Autostackkert! でアンカーに固定した方が良い時もあったりします。スタックしたあとの Registax6 の操作はスチルと特に違いはありません。
動画は時間にして30秒程度で1500枚程度の画像が得られ、それだけあれば十分な感じです。大気の揺らぎによるシーイングの補正に有効なんだと思います。またシーイングが良いのは正義で、月でも惑星でも段違いの解像度が得られます。

星雲/星団の処理

オリオン大星雲、アンドロメダ銀河などの処理の仕方です。複数のスチル写真をスタックして画像を得ます。
DeepSkyStacker を使っています。長時間?露光したスチルを数枚〜数百枚レベルでスタックします(総露出時間は数十分〜数時間になるぐらいで効果が出てくるようです。複数の日に撮ったデータを合成する方もいるようです)。JPEG も対応していますが、RAW の方がいいよとツールに言われます。多少時間によってずれたり回転したりしていても写っている星を頼りに移動/回転をかけながらガンガンスタックしてくれます。撮影条件(温度含む)が同じでレンズキャップをしたまま撮るノイズ除去用のダークフレームや、周辺減光を補正するためのフラットフレーム(撮り方色々ですがPCの液晶にグレーを表示させて撮ってます)は無くてもスタックしてくれます。スタック後にトーンカーブのようなものをいじって光害をカットしつつ星雲/星団を浮かび上がらせるよう補正をかけて炙り出します。一昨年もチャレンジしたのですが、元画像の解像度、ピントなどさまざまな要因はあるものの、イマイチ炙り出し方がわからなかったのが一番の原因だったんだなと思います。
長時間露光をすればスタックに使う枚数は減らせますが、そもそも都内で撮影すると30分なんて長丁場の露出画像を得ることは難しく、そもそも自分の場合赤道儀を持ってないのでそんな撮影もできません。短時間露光(数秒程度)で枚数を稼ぐやり方を知ったのですが、短時間露光なら飽和もしないし星も流れないし、赤道儀じゃ無くてもどうにかなるので(弊害はありますが)、都心で撮るなら一石二鳥?なのでお試し中です。

スタック処理後の追加処理

スタック後に複数の画像から一枚の画像を生成するモザイク合成と、複数の画像からデローテーションする方法について。適用できる種類は限られますが、更なる高解像度を得る手法です。


モザイク(パノラマ)合成

Image Composite Editor2 を使って先程の動画処理で得られた月の拡大画像などを繋げて一枚の画像にすることができます。月全体を一枚で撮るより更に高解像度のデータが得られます。星雲、星団系でも複数の画像を繋いで大きなものにするケースがあるようで、このツールが使われることもあります。

デローテーション

WinJUPOS という惑星の回転を考慮してスタックしてくれるツールを使います。土星などにも使えるようですが、木星を処理する際に有用です。木星の自転はとても速く、撮影中に刻一刻と回転していく様子がわかります。複数の時間差で撮った動画から得られたスタック結果を WinJUPOS にかけることにより、更に鮮明な画像を得ることができます。

処理画面例

Registax6

PIPP

Autostakkert!

DeepSkyStacker (補正前)

DeepSkyStacker (補正中)

Image Composite Editor2


ツール一覧

* Image Composite Editor2 は Microsoft が公式に配布をしなくなったので、別のところからダウンロードする必要があります。上記天文ガイドのリンクから辿って下さい。